医療・介護求人サイトの高額な違約金請求はなぜ起きるのか
― トラブルではなく「設計のズレ」として整理する ―


監修:若経営法律事務所 弁護士 佐藤浩樹 先生


はじめに|本記事について

本記事は、医療機関の契約・労務・法務支援を行う 杜若経営法律事務所 の監修のもと、
RE:MEDがこれまで医療法人・社会福祉法人から受けてきた相談を整理し、

「医療・介護求人サイトにおける高額な違約金請求は、なぜ起きるのか」

を、構造的な視点で言語化したものです。

「突然、数百万円の請求が届いた」
「規約違反と言われたが、意図したものではない」
「現場は真面目に対応していた」

こうした相談は決して珍しくありません。

しかし多くの場合、問題は悪意ではありません。
契約の前提と、日々の採用運用の設計が揃っていないこと。
そのズレが、あるタイミングで表面化しているだけです。

本記事では、違約金請求を単なる法的トラブルではなく、契約・運用・判断基準の構造として整理していきます。


請求は「突然」起きるのか


ある日、求人サイトの運営会社、あるいは代理人弁護士から内容証明郵便が届く。

「利用規約違反が確認されました。違約金を請求します。」

請求額は数百万円、場合によっては数千万円。

相談を整理していくと、この流れ自体は決して特殊ではありません。

多くの法人に共通しているのは、

・意図的に規約違反をしたわけではない
・利用料金を免れようとした自覚もない
・通常通り採用業務を行っていた

という点です。

問題は「悪意の有無」ではありません。
契約が想定している運用と、現場が実際に行っていた運用が一致していたかどうか。
その整合性が問われています。


高額な違約金請求は、どのように起きるのか

多くのケースで、流れは似ています。

  1. 求人サイトを通常通り利用していた

  2. ある日、管理画面にログインできなくなる

  3. 運営会社に問い合わせると「規約違反の可能性があるため利用停止中」と伝えられる

  4. その後、代理人弁護士から通知が届く

  5. 応募者一覧(いわゆる回答シート)への回答を求められる

  6. 回答内容をもとに、違約金が算定され請求される

ここで多くの法人が戸惑います。

「なぜ、これが違約金対象になるのか」
「そんなつもりはなかった」
「今さら言われても…」

しかし、この時点ですでに論点は “気持ち”ではなく“契約と事実”に移っています。


違約金請求につながりやすい典型的なズレ

実務上、特に多いのは次のようなケースです。

◼︎採用したが「不採用」と処理していた

  • 入職後すぐに退職した

  • 数日で来なくなった

  • 内定後にトラブルがあった

こうした場合、現場感覚では「実質不採用」と整理されがちです。

しかし、求人サイトの利用規約上の「採用」は、現場の感覚と一致していないことがあります。

別ルートで再応募・再採用が起きた

過去に求人サイト経由で応募があった求職者が、

  • 別媒体

  • 直接応募

  • 知人経由

などから再び現れ、一定期間内に採用される。

規約上、「当該サイト経由の採用とみなす」とされている場合、ここが違約金の起点になります。

◼︎求職者情報の共有

採用に至らなかった求職者について、

  • 他法人に情報を伝えた

  • グループ内の別施設で採用された

こうした行為も、規約によっては違約金対象となります。

いずれも、現場では“よかれと思って”行われやすい対応です。
だからこそ、ズレが起きます。


問題は「違約金の額」よりも前にある


高額な金額が提示されると、 どうしても「金額の妥当性」に意識が向きます。

もちろん、法的には金額の相当性が争点になることもあります。

ただ、整理すべきなのは、その一段手前です。

  • 何をもって「採用」とするのか

  • どこまでが報告義務なのか

  • どの期間、どの経路が対象になるのか

これらが院内で明確に共有されないまま運用されていること自体が、最大のリスクです。

違約金請求は、突然落ちてくる雷ではありません。 設計されていない運用が、後から契約によって照らされただけです。


採用業務が「属人化」しているほど、リスクは高まる

多くの医療機関では、

  • 応募対応は事務スタッフ

  • 面接判断は院長

  • 入職後の管理は別担当

と、情報が分断されています。

その結果、

  • 誰が

  • いつ

  • どの経路で応募した人を

  • どの状態まで進めたのか

が、正確に一元管理されていないケースも少なくありません。

求人サイトの規約は、「正確な報告がなされる」ことを前提に設計されています。

現場の忙しさと、契約が想定している運用水準。
この差が、そのままトラブルの温床になります。


違約金請求を「防ぐ」ために必要な視点

重要なのは、テクニックではありません。

  • 特別な交渉術

  • 裁判例の暗記

  • 強気な姿勢

ではなく、採用と報告がズレない構造を、最初から作っておくこと。

具体的には、

  • 規約上の「採用」の定義を確認する

  • 応募経路と採用結果を必ず紐づける

  • 入職日・出勤実績を事実として記録する

  • 報告担当を明確にする

  • 担当変更時の引き継ぎ項目に含める

これらはすべて、「揉めないための経営管理」の話です。


おわりに|高額請求は、経営判断の問題として現れる


医療・介護求人サイトの違約金請求は、単なる法的トラブルではありません。

  • 契約

  • 運用

  • 判断基準

この三つが、どこまで整理されていたか。

その結果が、請求という形で表に出ているだけです。

もし今、

  • 採用フローが曖昧だと感じる

  • 「これは採用なのか?」と迷う場面がある

  • 規約を最後に読んだのがいつか思い出せない

そう感じるなら、それは問題が起きる前のサインかもしれません。

トラブルが起きてから対処するのではなく、起きない構造に整えておくこと。

それが、これからの医療機関経営において静かに効いてくる判断です。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、
特定の事案についての法的助言を行うものではありません。


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監修者情報

佐藤 浩樹(さとう ひろき)
弁護士(第一東京弁護士会)/杜若経営法律事務所

慶應義塾大学法科大学院修了。司法試験合格後、最高裁判所司法研修所(75期)を経て弁護士登録。

使用者側(企業側)の労働問題を専門に、残業代請求、解雇・問題社員対応、ハラスメント、団体交渉など幅広い労務案件に従事。 医療・介護分野にも注力し、求人サイト・人材紹介会社からの違約金請求トラブルにも多数対応。

『就業規則の法律相談Ⅰ・Ⅱ』(青林書院・共著)。第65回全日本病院学会登壇。

執筆者情報


川越 雄太(かわごえ ゆうた)
医療経営コンサルタント/株式会社REFOLMO 代表取締役/RE:MED代表

クリニックの経営側・現場・事業会社・コンサルという複数の立場を行き来しながら、
医療がうまく回らなくなる構造を現場で見続けてきた。

自費・オンライン診療クリニックでは事務長/COOとして経営に参画し、
売上設計、業務フロー構築、DX導入、採用・育成までを横断して担当。

現在は、医療を構造から捉え直すためのメディア/実践の枠組みとして「RE:MED」を運営し、
発信とあわせて、医療機関へのハンズオン型コンサルティングを行っている。

2026/02/20 07:00 -

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