AIが進むほど、医療に必要になる“余白”という視点


監修:株式会社やまなつ 代表取締役 山中奈津子


はじめに|本記事について

本記事は、DX・AI活用支援を行う株式会社やまなつの監修のもと、
RE:MED(リメッド)がこれまで医療機関から受けてきた相談事例を整理し、

「なぜ医療現場から“余白”が失われていくのか」
という問いを、構造的な視点で言語化したものです。

「常に時間に追われている」
「スタッフが疲弊している」
「ITを入れたはずなのに、むしろ業務が増えた感覚がある」
「現場でゆっくり話す時間が減った」

こうした声は、規模や診療科を問わず聞かれます。 しかし多くの場合、その原因は医療者の努力不足でも、能力の問題でもありません。

問題はもっと手前、業務設計と、その“運用のされ方” にあります。

ツール単体の問題ではなく、それをどの業務に、どの順番で、誰の役割として組み込むのか。
この設計が曖昧なまま現場に積み上がると、結果として「忙しさ」だけが増幅していきます。


医療現場から“余白”が消えるとき

医療という仕事には、本来もっと余白が必要です。

・患者さんと落ち着いて向き合う時間
・雑談の中で生まれる信頼
・言葉にならない違和感を感じ取る余裕

これらは診療の付属物ではありません。医療そのものの一部です。 しかし現場では、それらを生み出す前に処理すべき業務が並びます。

入力、確認、共有、記録、報告。

気づけば、本来向き合うべき相手ではなく、作業と向き合う時間のほうが長くなっていきます。 重要なのは、医療だけが特別に忙しいわけではないという点です。

業種を問わず、仕組みが整理されていない現場ほど、人が頑張ることで回しています。 そしてその状態は、必ず限界を迎えます。


ズレの発生ポイント|「AIに何ができるか」から考えてしまう

AIやDXの議論が始まると、多くの場合こう問われます。

「AIで何ができるのか?」
「どのツールを導入すべきか?」

しかし、本来先に整理すべきなのは、

・人が担うべき仕事は何か
・人でなくてもよい仕事は何か

という役割の定義です。

AIの可能性から出発すると、「できること」が増え、結果として業務も増えます。

人の役割から出発すると、「減らすべきこと」が見えてきます。
この順序が逆転したとき、DXは効率化ではなく複雑化を生みます。


典型的な構造パターン

現場で繰り返し見られる構造には、いくつかの共通点があります。

① デジタル化はしたが、仕事は減っていない

システムは入れた。しかし入力は二重。
確認フローは増え、例外対応は属人化。

紙がデジタルに置き換わっただけで、業務の構造は変わっていない。

② 判断基準が曖昧なまま確認が積み上がる

「念のため」
「共有しておこう」
「一応確認」

基準が言語化されていないため、全員が不安を回避する方向に動きます。 結果として、確認と共有が増え続けます。

③ AIを“追加業務”として扱ってしまう

AI導入後に増えるのは、

・AIに入力するための整形作業
・出力の確認
・運用管理

本来減らすはずの業務が、新しい業務として積み上がる。

④ 「昔から」の業務が温存される

目的が再定義されないまま、慣習だけが残る。

その業務が本当に患者価値に結びついているのか。
この問いが抜けると、余白は生まれません。


本来整理すべき論点

AI時代に問われるのは、技術ではなく設計です。

1. 定義|人の役割は何か

人にしかできないことは何か。

向き合うこと。
感じ取ること。
最終的に責任を持って判断すること。

この定義が曖昧なままでは、何を任せ、何を残すかは決まりません。

2. 判断基準|どこまでを自動化するのか

標準処理は自動化する。
例外は人が判断する。

この線引きがなければ、結局すべてを人が確認する構造になります。

3. 順序|ツールの前に業務を整理する

  1. 業務の棚卸し

  2. 不要工程の削減

  3. 標準化

  4. そのうえで自動化

順序が逆転すれば、複雑な業務をそのままデジタル化するだけです。


IT・DX・AIの本来の役割

ITやAIは仕事を増やすものではありません。 本来の役割は、「考えなくていいこと」を減らすこと。

人はそのとき初めて、本来の仕事に戻れます。

患者と向き合うこと。
小さな違和感に気づくこと。
関係性を築くこと。

これらは効率化の対象ではありません。守るべき領域です。


パートナーの立ち位置

DX支援の役割は、正解を提示することではありません。

どこで業務が増えているのか。
どこに判断基準がないのか。
何を残し、何を減らすのか。

それを一緒に整理すること。

仕組みの前に、構造を言語化する。
そこから余白は生まれます。


おわりに|忙しさは“見直しのサイン”

もし今、「常に時間に追われている。」「考える余裕がない。」「現場の会話が減っている。
そう感じているなら、 それは人が足りないサインではなく、構造を見直すタイミングかもしれません。

AI時代に問われるのは、技術への適応ではなく、人が何を担うかという設計です。 医療に必要なのは、患者さんと向き合う余白。

そして余白は、努力ではなく仕組みによって生まれます。 忙しさは失敗ではありません。見直しの入口です。


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監修者情報


山中 奈津子(やまなか なつこ)
株式会社やまなつ 代表取締役

デザイン学校卒業後、広告デザイン事務所にて制作業務に従事。 プロジェクト全体の設計や方向性を担う面白さに惹かれ、ウェブディレクターへ転身。

その後、株式会社リクルートに入社し、「リクナビ」の制作を担当。大規模Webサービスの企画・運用に携わる。

現在は株式会社やまなつ代表として、医療機関向けのIT・DX支援および教育事業を展開。 業務設計と運用改善を軸に、テクノロジーを活用した現場負担の軽減と、持続可能な医療体制の構築を支援している。

執筆者情報

川越 雄太(かわごえ ゆうた)
医療経営コンサルタント/株式会社REFOLMO 代表取締役/RE:MED代表

クリニックの経営側・現場・事業会社・コンサルという複数の立場を行き来しながら、
医療がうまく回らなくなる構造を現場で見続けてきた。

自費・オンライン診療クリニックでは事務長/COOとして経営に参画し、
売上設計、業務フロー構築、DX導入、採用・育成までを横断して担当。

現在は、医療を構造から捉え直すためのメディア/実践の枠組みとして「RE:MED(リメッド)」を運営し、 発信とあわせて、医療機関へのハンズオン型コンサルティングを行っている。


2026/03/03 07:00 -

【監修記事】AIが進むほど、医療に必要になる“余白”という視点


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